#12 伊勢丹とTikTok(どっちも偉い)
世間様を相手にするのであればそれは自分一人を主語に決めてはいけない / 完全なエゴに基づいた偏狭な提案はしないが、しかしもちろん全部はできない / 全員にこの3つ4つと心中してもらう…そういう、エゴからくるのではない傲慢さが大事
松田:このあいだ、伊勢丹にお菓子を買いに行ったのね。
みなと:うん。
松田:まずひとつには、今度大阪に行くときに弟に会うからそれ用にさ…てかうちの弟さ、もう子供2人おって入園式とか言うてるねんけど。
みなと:笑
松田:まあそれはええねんけど…てかみなと結婚指輪着けてるやん、むっちゃええやん。

みなと:最近は着けてるね。僕は結構気に入ってる。
松田:うん。繊細やけど華奢じゃないというかね…ほんでお菓子を買いに行ったんやけどさ、お菓子ってちょっと種類多すぎひん? まじでめっちゃ売ってたよ。
みなと:めっちゃあるね、当たり前にすごい数あるよね。
松田:そうそう。
みなと:和の中でもどら焼きとか羊羹とかあるし。
松田:まじでそう。確かにそういうのを楽しめるテンションのときもあるねんけどさ、プラクティカルに必要なお菓子やから、選択肢多い感じがほんまに嫌やってん。
たねやのふくみ天平を「大人のねるねるねるねや」言うて渡しました
みなと:今日、今この瞬間に決めなきゃいけないからね。
松田:そう、可能性が豊かであることを楽しんでる場合じゃないのよ。和洋一つずつ、とらやとピエール・エルメだけ存在してくれればそれでよかったよ。
みなと:笑

つまるところこれ
松田:まあなんしかそういう気持ちになったわけ。ほんでその後に服も見て回ってんけどさ…前にみなとと、メンズ館のニット全部見て回ったことあったやんか。
みなと:あったね。
松田:あのときさ、メンズ館だけで死ぬほどニットあったやん?
みなと:あれやばかったね。結局何も決められなくて出たし。
松田:あのノリで本館の方を見て回ってんけど、やっぱ地獄やねん。おれあんま分かってへんかってんけど、服ってめっちゃ種類あるねん。そら白も200色あるわって感じ。
みなと:笑
松田:あとな、本館の一階で香水のプロモーションをやっててん。同じ格好の販売員が10人近くおって、サンプル配ってるみたいな。
みなと:はいはい。
松田:それは前に来たときもやってたし、なんならその香水を買ったから知っててん。「シャネルさんまだやってるのね」って。
みなと:なるほどね。
松田:ほんで近くに来たら…シャネルちゃうかってん、シャネルはもう終わってて、今度はエルメスの香水がプロモーションしてんねん。
みなと:あー。

松田:しかもそれが庭シリーズの新作やねん。おれの中でエルメスの香水のラインナップは魔窟で、まずラインがたくさんあるし、ラインに属してる感じじゃないスタンドアロン型の香水とかもあるし…で、庭がまたひとつ増えるわけでしょ。もういい匂いならなんでもいいのにさ、多すぎでしょ。
みなと:笑
松田:なんしか次から次へとすごいなと…それで思ってん、これはもう TikTok やんけと。
みなと:あー、なるほどね。
松田:こう言うとディス話になりそうやけど、ちゃうねん。TikTok やなと思いつつ、じゃあどうあるべきなんかって話を考えると、とらやとピエール・エルメだけでええはずはないねんな。
みなと:そりゃあね。
知ってる
松田:やっぱバリエーションはないといけない…だから伊勢丹も TikTok もえらいのよ。わずかな差分のバリエーションをこんなにも作って、それらが売り場でテストされてるわけやん。実際のところそれ以外にはあり得ないというか、そうするしかないやん。そこにあって初めて、それがいいかどうかが問題になり得るわけで。
みなと:そうだねそうだね。
松田:手に取れる形で存在して初めて現実の問題になるというかね。さらにこれ、確かにそれだけのバリエーションが全体としてはあるんだけど…前にニットを見たときの話やと、たとえばアミパリのニットに絞ったら10種類も20種類もないわけやん。まあ知らんけど数種類とかやん。
みなと:そうだね。
今日の偏見:アミパリ着てるやつは24時間下心がある
松田:これはさっきとは逆方向の話で、たくさんある中から選ぶのは普通に無理、だからブランドなりフロアなりの恣意的なやり方で絞るやん普通はさ。
みなと:はいはい。
ニット全部見て疲弊した日だって伊勢丹メンズ館しか見ていないわけで、ここからも「うちのは同種の別の物の中で一番です」みたいなのがクソポジトークであることが分かりますね。恣意的なラベリングに還元できない多様性の中に生きていることを自覚する謙虚さと、そこにポジションを取る傲慢さをもって今日を過ごしましょう。
松田:そうしたら意外と選択肢はなくて、でもその中から決めなあかんやん。これもこれですごいなと思うねん。つまりこれ、いったん発散してから収束してるなっていう…なんかそういう類の話やねんけど。
みなと:なるほどね。かつ収束がすごく急というか。
松田:そうそう。その収束にはブランドのある種の傲慢を見ることができるし…
みなと:「我々の今期のニットはこれ」みたいなね。
松田:そうそう。で、買う側にはそれと対応するある種の盲信があるわけやん。
みなと:うんうん。
松田:でもそれをどうこう言うことなんてできひんなと最近思うねん、てかもう選んだだけえらいよ。全ての取り得る選択肢を自分で検討することがもっとも誠実だとして、ニットを買うだけでもあんなに大変だったし。
みなと:そうだね。そもそもあの日買えてないし。
松田:そこはもう目をつぶってえいやで買うしかないやん、人生を生きるってそういうことやん。
みなと:そうだね。
松田:なんかちょっと散らかっちゃってるねんけど…つまりこれ第一義的にはね、自己満足的な、他人を顧みないような決め打ち、「おれはこれがいいと思うから」の一本でいくのは、やっぱ全然違う気がするねん。
みなと:うんうん。
松田:そんな傲慢はいらんのよ。一人でたくさんの人のそれを担うんだから、せめて同種のものを3つ4つ…か知らんけど、提案せなあかんと思うねん。
みなと:うん。
松田:本当の売れ線を探すためにそうしましょうというよりは、世間様を相手にするのであればそれは自分一人を主語に決めてはいけないっていう話。点字ブロックを設置することは大事やねん。
みなと:あー、うんうん。
松田:だから3つ4つは提案しないといけない…でも逆にな、100個も1000個も提案して「どれでもお好きなものをどうぞ」はでけへんねん。
みなと:うんうん。
松田:そこで、つまり本当に世間様に寄り添った無限のバリエーションは取り得ないという意味で、初めてある種の傲慢さが必要なわけ。
みなと:はいはい、そうだねそうだね。
松田:自分は、自分とあなた方を含めた私たちのためにこの生産を担うと。だから完全なエゴに基づいた偏狭な提案はしないが、しかしもちろん全部はできない。だからここまではやるがこれ以上はしないということを明確にして、ここまでの範囲に全員を押し込めなあかんねん。
みなと:はいはい。
松田:ここに2方向の覚悟みたいなんがいるわけやん。3つ4つは提案するし、そのうち特にお気に入りのひとつに思い入れることもしないと。ただしそれ以上の提案はしないし、全員にこの3つ4つと心中してもらう…そういう、エゴからくるのではない傲慢さが大事だなと思うわけやねんな。絶対にその中から決めてもらわなあかん。だから第一義的には傲慢は捨てなければならないんだけど…
みなと:一方で、ってことだよね。なるほどね。
松田:そうそう。一方で第二義的には傲慢でなければいけないし、それは結果につながる傲慢じゃないといけないから、場合によっては盲信も生まれると。
みなと:なるほどね、はいはい。
松田:って、めちゃめちゃ思いましたって話。
みなと:笑 なるほどね。伊勢丹に行ってね。
松田:まあね、そもそも最近の気分としてそういう感じなんやけど、にしても伊勢丹で特に思ったよね。「あれこれTIkTokじゃん…てか世界全部こういうことでは?」みたいなね。
2023年4月16日
Aux Bacchanales 紀尾井町