#14 感度とかいう悪しき言葉

チャンネルが増えるだけで、別に感度が上がるとかないから / 複雑な物事をなんとか説明しようとして struggle して出てきた言葉っていうのは美しい / 実際のところファッション業界はボキャブラリーのソマリア

梶村:感度が高いっていう言葉がすごく嫌いって話。

松田:はいはい。

梶村:感度って言葉、もう見るたびに怖気が出るほど嫌いで。なんなんだろう、あの上から目線。感度に高いとか低いとかないねんけど。

松田:うんうん。

梶村:チャンネルが増えるだけで、別に感度が上がるとかないから。

松田:うん、確かに。

梶村:あいつらはほんまに…「感度が高い顧客様が」とかな。あと顧客様って言葉も嫌いやねん、文字がダサい、美しくないから。

松田:笑

梶村:それはさておき、ファッション業界の人ってほんまにボキャブラリーが貧困だから、壊れたラジオのように同じ言葉を使い続けるやんか。

松田:それはそう。

梶村:その中でも感度って言葉を使ってるお店はもう無理。

これはもう色々だめです。感度の高いジュエリーってなに?

松田:でもチャンネルが増えるっていう見方はいいですね。感度が高いとか低いとか言って相対化し出すと、それはもうポジショントーク以外の何物でもないですから。

梶村:そうやねん、それによって何が言いたいねんって話やん。「わあ素敵、他と人とは違って感度が高いですね」ってことやろ。

松田:「お似合いですね」みたいなね。

梶村:それの一番クソみたいなバージョンやんな。お似合いですとかならまだいいんよ、でも感度が高いっていう言い方はすごく嫌だ。

松田:でもお店で言われたことあります?

梶村:それがないんよ。さすがに「お客様は感度が高くいらっしゃって」とか言われたらね、ここは京都かなって思うやん。

松田:笑

京都の人は意地が悪いって話、TRANSITにも見開きで書いてたらからもう信じることにしてる

梶村:でもネット、お店のブログとかだとよく見るよね。あれって誰が使いだしたんかなって。ほんまに邪悪なやつが考えた言葉やで。世の中に許せない言葉がいくつかある中でも、感度って言葉はすごく嫌だな。

松田:感度もそうですけど、せっかくこの複雑な世界を手にとるために言葉でもって漸近しているのに、感度って一言で丸めちゃうことで事態を矮小化しちゃうやつ、ほんまクソですよね。

梶村:そうやね。でもそれはもうファッションだけじゃなくて…単純化するのって本当によくないよね。

松田:うん。

梶村:複雑な物事をなんとか説明しようとして struggle して出てきた言葉っていうのは美しいんだけど、何も考えんと感度とか言われると、それはリスペクトがないやろってなるんよね。

松田:言葉という矢で的の中心をパシッと射抜こうとしているところに、バズーカを持ち出して的ごと全部吹き飛ばそうみたいなもんですよね。

彼らにとっての感度という言葉のイメージ

梶村:分かる分かる。まあ日々忙しい中ではさ、いちいち言葉を精査して射抜くようなことはしてられへんのじゃというんであれば、まあ分かるねんけど、でも多分そういうことじゃないねん。もうちょっとくらい考える時間あったやろ、って。

松田:笑

梶村:あと10分だけ考えれば使わずに済んだような言葉を多用するお店は潰れろって思うな。

松田:でもこれ分からんのがね…実際のところファッション業界はボキャブラリーのソマリアじゃないですか。あいつらの辞書って雑誌くらいの厚さしかないと思うんですよ。

梶村:笑

松田:で、そういう人たちからすると、感度っていう言葉はいかにも秀逸な表現に映っている気がするんですよ。「こう言ったら売れるな」とかでさえなく「こいつは言い得て妙だわ」くらいのことを思ってみんな使ってる気もするんです。

梶村:あー、便利な言葉として? 「今まで埋められなかったこの気持ちを表現できる便利な言葉を見つけたぞ」って。

松田:そうそう。これ他にもどっかで思ったんですけど、なんしかアホの考える賢い人の使う言葉ってあるじゃないですか。

形式名詞を漢字で表記するやつ、アホなんばれてるで

梶村:あるある笑

松田:感度って、ファッション業界にとっては多分そういう言葉なんですよ。だからその邪悪さを意識しながらなお使っているというよりは「おれの辞書にも感度、あるぜ」みたいなところがあるんじゃないかって。

梶村:なるほどなるほど。ここでまた僕の中で一つの葛藤があって、そうだとして否定するのもよくないのかなって思っちゃったりするのよ。

松田:はいはい。

梶村:みんなに悪いなって思っちゃう。それも結局マウントでしかないというか、「お前よりおれのほうが言葉知ってるぞ」っていうだけのことなんかなって。

松田:笑

梶村:でもその反面、それを許すことで世の中の事象を単純化しちゃう怖さもあるわけやん。だから池上彰はすごく嫌いなんやけど…

松田:笑

梶村:すごく複雑なことを簡単に説明する中で、そこで捨象されることがあるわけやん。ウクライナ問題が30分で分かるわけがないやん。でもあいつは30分で説明しちゃうねん、すげーから。

松田:前にね…服屋の店員さんなんですけど、普段何して過ごしてるかって聞かれたから本読んでるって言ったら、「私も本読みますよ」って。

梶村:はいはい。

松田:そういうときは「でも小説とかは読まないんですよ」って言ったらだいたい話終わるんですけど、「小説よりもっと…勉強?みたいな」って言うんで聞いたら「池上彰とか」って。まあ可愛かったんでいいですけど。

梶村:そういうときってどう返すの?

松田:「あっ…ふーん」って。

梶村:そこで「なんやねんお前」とかさ、「池上彰ってどういうことやねん」とか、やっぱそう言うわけにもいかないやん。言ったら異常者やん?

松田:そうですよね。

梶村:それに別に知っているから偉いわけでもないやんか。つまり情報の非対称性でマウントを取るのは、格好悪いからしたらだめだと思っていて。それに、そこで自分が安心しちゃうのも怖いんよな。なんでかって…僕実際に安心しちゃうんよま。

松田:うんうん。

梶村:そういう瞬間があるねん、「あ、自分マウント取って楽しくなっちゃってるじゃん」って。

松田:笑

お前もあるって言いなさい

梶村:そこにどうやって折り合いをつけようかなって。だってさ…池上彰とか言われたら「…ふふ」って思っちゃうやん、やっぱり。

松田:まあね、それはそう。そこはむずいですよね。なんかこれ中庸な性格を模索するハイブリッド案は無理な気がするんで、めっちゃ嫌なやつとめっちゃピースフルなやつを5年周期でやるっていうのはどうですか。

梶村:あー、はいはい笑 でもそうやって極端に振るしかなくなっちゃうよね。

松田:で、5年周期でやってたらみんな5年前を思い出して「こいつも変わったな」って思ってくれるんで。

梶村:笑 たまにそういう人おるな。でもずっとピースフルでいるなんて、毎日 MDMA 食うくらいのことせんと無理じゃない?

松田:笑

梶村:かといって、すごい嫌なやつをやってると友達いなくなっちゃうし。結局は煮え切らん、時にいいやつで時に嫌なやつになるしかない…それ普通の人やな。

松田:笑 じゃあこれは? 嫌なやつの人格は自衛隊として心の中に飼っといて、相手が茶々入れたらスクランブルするんです。刺すときは刺す。

梶村:有事の時はね。

松田:そうそう、でも示威行為もたまにします。

梶村:笑

松田:でも基本的にはピースフル…こうやってると、相手からの誠実さを引き出せる蓋然性が高まる気はしますよね。そうすればどっちのスタンスとかではなく、揉めんでええところでは揉めずに、建設的な関係を築ける気がするんですよね。最近ちょっと考えていました。

梶村:あー、なるほどね。でも心の自衛隊っていうのはええな。なるほどね。

松田:前にね、大学のときの友達に会ったんですよ。その彼はスタートアップをやって、それなりに会社も大きくなって、ファッションが趣味らしくて革靴とマルジェラが好きらしいんですよ。

梶村:うんうん。

松田:もう絶対にあかんやつじゃないですか。でもせっかく会うし揉めたくないなって思いながら会ったら、会うなり僕の手元を見て「あれ、シェーヌダンクルじゃん」って。

梶村:笑

深澤てめーだよ

松田:それをおれに言うのはだめでしょ、がっつり防空識別圏ですよ。ほんま最悪とか思いながら「うん、今流行ってるよね」とか言うて。

梶村:はいはい。

松田:さらにそれで済ませとけばええのに「いつ買ったの?」とか言うんですよ。8年前に東急本店で担当さんに言うてなんて、そんなこと言いたくないでしょ?

梶村:笑

松田:まあ言いましたけどね。そしたら若干動揺し出すんで、それでもう終わりです。その話は終わりにして、もっと話したい話ができました。

梶村:なるほどね、それは確かに大事やな。最初の段階である程度擦り合わせとかないとお互いにとっての不幸が起こるからっていう意味でのそれは…非常に大事やな。

松田:そうそう。

梶村:それがないともう戦争しかないからね。

松田:もういくとこまでいくしかないですから。

梶村:僕も気をつけよう。僕オーラーリーのことすごく揶揄するけど、別に嫌いじゃないからね。

松田:うん、僕もそう。この冬はオーラリーしか着てませんでした。めっちゃ良かったですよ。

「オーラリーとか着るんだ」って言ったやつへ、僕は先に行きます

梶村:そらええよ、ええに決まってるのよ。でも自分にはやっぱり似合わないし、似合うやつへの妬みもあるのよ。だからオーラリーはルッキズムだっていつも言ってるんやけども。

松田:笑

梶村:だってオーラリーが似合うやつって高身長で手足の長いシュッとしたやつなんよ。僕は絶対に似合わへん、天神橋筋商店街の地べたに座ってる系やから。

松田:まあ否めん。

梶村:だからオーラリーも便利な言葉ってだけやねん。でも感度もそうやけど、便利な言葉を使いすぎるのはよくないからもうやめてん。

松田:か、やっぱ便利なんでオーラリー着ながら言ったらええんちゃいます? 「ええ服や、しかしクソや」って。

梶村:笑 でも似合うかっていうとやっぱな。あと便利な言葉やとエグいって言葉も気をつけてるねん。最近もうエグいが便利すぎるやん?

松田:あー、でも確かに。

梶村:今もう全部エグいでいけるやろ、もう fuck とか shit みたいになってるやん。

松田:エグい…あとはやばいとかかわいいもだめですか?

梶村:いや、かわいいはおれ言っちゃうねん。

松田:笑

梶村:でもやっぱよくない。もっときちんと物事を描写せんとあかん。

松田:僕はかわいいに関しては逆で、むしろ言えないんですよ。でもそんな自分が好きではないです。

梶村:なんでかわいいは使えなかったん?

松田:え…だって全部かわいいとかおかしいじゃないですか。

梶村:でも実際かわいいものはあるやん?

松田:あー…その感覚がないですね。まあちいかわくらいまでいくとかわいい気もしますけど。でももっとギャルの気持ちで使いたいんですよ。

梶村:あ、なるほどね。道端のぺんぺん草見て「かわいい~」って言うやつな。あれはすごいよな。

松田:笑

梶村:彼女らの脳みそ、一回同期して経験してみたいもんな。何を見てかわいいと思ってるんやろうって。

松田:辞書やとかわいいの項目だけ用例多そうですよね。まあ辞書持ってんのか知らんけど。

梶村:笑 でもエグいはな…「あかんあかん」ってなる。

松田:そうなんや、偉いですね。

梶村:やばいはな…使っちゃうよな。もう小さい時から使ってるからな。でもエグいは多分最近やん?

松田:あー、確かにそうかも。

村:僕の観察してる限りは、特にFPS系のゲーム実況者の界隈が出始めやと思うねんな。それでインスタとかTwitchとかで広まっていった気がする。だからエグいは使わない。 

2023年4月22日
阪急メンズ大阪 The Lobby BOOKSTORE & CAFE