#3 何かに詳しくなるには
対象の領域をまず決めて、そこを特定の解像度で全部さらう / 下手にちょこちょこって見てみるんじゃなくて全部、だよね / 全部を見てみると、なんであれほとんどは数パターンに収斂する
河東:松田が言ってる事業するみたいなんってさ、どういう切り口で考えんの? したい仕事じゃなくて…って、前にフグレンで話してたやん。それってどうやって決めんの?
松田:具体的に何するかなんてまだ決めてへんよ。でも…前に web サイトを一個作ったって言ったやん、これはちゃんとお金を稼ぐようにするって言ってからの最初の仕事やったわけ。
河東:はいはい。
松田:これ、アウトプットのクオリティ自体は死ぬほど高かったと思ってるし、おれはいつでも同じレベルのものが作れる。あるいは他にも同じように、人よりうまくできることってあると思うねん。
河東:うんうん。
松田:でもそれをずっとやるわけにはいかんやん。だっておれがそれを続けても一ヶ月で1人月しか働かれへん。しかも今回のクライアントは、おれがサイトを作ったサービスが主な稼ぎ頭なわけではなくて、だからそれに割ける予算は特別大きくはないわけ。なんか…そういう仕組みになってるとか、これまではあんま分かってへんかった。ええもんやからええ値段で売れるんではないわけやん。
河東:うんうん。
松田:だから…あれやんな、何をするかをどうやって決めるのかって話やんな? 今は自分の能力と、それをはめ込むところを慎重に考えているって感じやわ。とにかくあまりに何も知らないから、そこを知ることに時間をかけてる。その間に目に見える進捗がないことはあまり恐れていないかな。
河東:そういうことやんね。自分の能力をはまるところに乗っけるって感じやんね。あとはそこに予算がつく構造になっているのかとか、そういう話やんな。
松田:まあ能力はね、やってく中で飛躍的に成長するもんやから。それよりも業界の構造とか予算のつき方とか、そういうことを慎重に見極めるのが一番大事な気がする。そこをあとから変えるのは難しそうやから。
河東:あとはその単価感を知らないバカに売るっていうやり口もこの世の中にはあるやん?
松田:まあそれはそう。それこそ 有名なブランド のデザイナーなんてね、がっつり大麻吸いながら「頭の悪いやつほど金を払いたがるからね」って言ってるらしいし。
西川:笑
松田:でもその話にしたって別に、以前なら思ってたであろう「その不誠実はどうなんだ」みたいな気持ちがあんまないねんな。
西川:へー。
松田:今は commmon の web サイトを新しくしてるけど、ここ2-3年で英語圏で流行ってるニュースレターっていうスタイルを取ろうと思っていて、それを通してニュースレターについて確認したい仮説もいくつかある。そういう中で、ここやったらピタッとくるな、あとはエクセキューションの問題だなと思う何かがあれば、そこでやろうかなって感じやな。そういう意味で今すぐ具体的に何をしようと思っているわけではないし、急いでもないよ。
河東:それを見つけにいく作業ってさ、具体的にどんなことしてんの?
松田:なんやろな。まあ前に作ったって言った web サイトみたいに、やる機会がある仕事はやってるし、あとはリサーチめっちゃしてるな。この前はリサイクル業界ディグってたで。
河東:そのリサーチのやり方教えてほしいねんけど。松田その筋めっちゃよくない? タカとかもそうやねんけど、何かに詳しくなるまでのスピードがほんまに早いのよね。
西川:あー。
何かに詳しくなる方法にはパリピ系とガリ勉系の2種類があると思っています。前者のパリピ系は、筋のいい知り合いや有名人を次々と、まるでシナプスを繋いでいくかのようにして参照し続け、「これに関してはここを参照しとけば間違いない」というマップを作る方法で、おそらくタカが得意なそれです。かなりエンドツーエンドなやり方で、理論を抽出して一般化するのは難しい、センスの有無がものを言うやり方ですね。僕には無理です。今回話題になっている方法は後者のガリ勉系、一応誰にでも再現できるとの触れ込みです。
河東:一朝一夕のもんではないとは思うねんけど、コツとかだけでも聞きたいわ。転職とかでも特定の業界をより早く理解する方法は絶対にあるはずで、それがその業界のキーマン一人から話を聞くことなのか、あるいはなんか、ええググり方があったりするのか…
松田:まああれやで、今回自分が取り組んでいるディぐりに関してその方法が妥当なんかは知らんが、ここからここまでっていう対象の領域をまず決めて、そこを特定の解像度で全部さらうって感じちゃうかな。
河東:あー。
松田:じゃあ例えばやけどジュエリーに関して詳しくなりたかったら、ヤフオクでブランド名の OR 検索 AND 特徴の OR 検索で、ブランド × 特徴に当てはまる一覧が出てくるわけやん。それがまあ数千件とかヒットすると思うねんけど、それを全部見たらなんとなく世界観分かるようになるやん。
西川:えー…でもなんでヤフオクなの?
松田:まあなんでもあるからっていうのと、検索がしやすいからかな。
河東:全部見んの?
松田:そうやな、でも確かに数千件はちょっとやりすぎというか、この場合は検索対象の領域を狭く設定して検索結果を減らした方がいいとは思う。おれは好きやからやるけどね。
河東:なるほどね。
特定の解像度で、つまり相互に比較可能なように同じ単位で要素を抽出すること、そしてそれら全てに目を通すことで、MECEな部分からなる全体を把握することが重要なので、抽出された要素が多すぎては意味がありません。その場合、単位を粗く設定することで要素の数を抑えるか、対象の領域をより狭めに設定することで解決することができます。
上記のヤフオクの例では、それぞれに出品された商品という単位はほぼ固定されており操作を加えることが難しいので、その単位は維持したまま、対象の領域を狭くする必要があります。例えば素材をK18に絞るであるとか、ダイヤモンドがついているものに絞るといったふうにですね。
松田:あとは…これをやったのはもう前の話やけど、そもそもお金を稼ぐということのリアリティがないなと思って、過去3年分の新規上場企業について全部調べてみてん。財務についての基本的な情報から、企業のサイトとかプレスリリース、あとは創業者のSNSとかね。
河東:へー。
松田:これも大事なんは、まずは対象の期間を区切って、その範囲を一定の解像度で全部見ることやと思うねんな。
西川:下手にちょこちょこって見てみるんじゃなくて全部、だよね。
松田:そう、たぶんそこが大事やねん。過不足なく全部やらんと次にいかれへんよね。そこはもう十分だから隣接した領域にいくのか、調べた中に特に気になる場所があるからそこを掘るのか、そこの判断ができなくなる。
河東:はいはい。
この方法を突き詰めた先、ついに理論では届かない、エンドツーエンドなパリピ系ディグのみでしか到達できない何かのみが残されているような感覚にいたることがあります。このときに、とはいえパリピ系のアプローチができない人の場合に取り得る手段がないではありませんが、それはまた次の機会に。
松田:あとは…一年前に中垣と、自分らお金についてのリテラシーほんま低すぎるからなんとかしようって言って週一で勉強会してたのね。最初は「ミッドタウンの建造費は何億円らしい」「すげー」「NISAってなに?」みたいな感じやってんけど、途中からはお互いに何かしら調べてきてそれを発表するってことにして、おれは大塚家具について調べてみてん。
河東:なんか女の人がおったやつやんね。

松田:そうそう。あれがどういう経緯だったのかとか、その変化がどれくらいの期間で起こったのかを知ろうと思って。で、彼女が社長を解任されてまた復帰した直後から上場廃止まで、日経新聞で「大塚家具」の検索結果に該当する記事全部を見てみてんな。
西川:へー。
河東:どうやんの、普通に遡れるもんなん?
松田:そうそう。期間指定して検索することができるから、そうやって出た検索結果をスクレイピングしてタイトルとURLと日付をシートに出すねん。そうしたら、時期ごとの記事数をグラフにできるし、じゃあ盛り上がってるその当時の売り上げはどれくらいで、どんな取り組みをしていて、世間的には何を期待されてたのか、その辺の雰囲気がなんとなく分かるやん。
この例は、時系列で追った大塚家具のお家騒動という観点からは、今回の主なテーマである、何かについて過不足なくインプットする方法をよく説明していますが、さらに広く、企業の具体的な活動やその根拠と結果という観点からは、具体の中にこそ一般があるということも説明できると思います。
大塚家具のことを調べるまで、財務諸表やそこに表れている企業の活動について、当たり障りのない解説のインプットから得られる以上のリアリティを感じていなかったのですが、大塚家具の出店戦略やセールの実施とその結果を知ると、理論に一気に血が通ったように感じられたのを覚えています。
系統地理学的なアプローチと地誌学的アプローチとの対比に例えてもいいと思いますが、抽象的に整理された全体像からディテールに迫る際、どうしても最後の手触りが感じられないことは往々にしてあります。この場合は具体に翻って一つのケースを取り上げ、それを追求する中で理論の根拠を発見することが非常に有効です。
河東:なるほどね。
松田:やっぱ全部見る、これちゃうかな。
河東:ええキーワードやね。
松田:そうやって全部を見てみると、なんであれほとんどは数パターンに収斂するねんって。何調べてもそうやと思う。
2023年1月20日
Aux Bacchanales 紀尾井町