#8 コミュニケーション、つまり世界を共有することにまつわる苦労について

中垣:怒ることってさ、あまり歓迎できることではないやん? たとえばシンプルな話、上司は部下に怒るんじゃなくて、それ以外の方法で教育をするべきやん。

松田:はいはい。

中垣:そういう怒りと…あとは嫉妬、この辺が自分の思う醜い感情としてあって。

松田:なるほどね、中垣の思う醜い感情についてね。

中垣:あるいは嫉妬の裏返し…じゃないけど、松田も知ってる同級生の某女の子のインスタを見て「まーたこんなことやって」って思うときのおれの気持ちとか。まあそういうことってあるやん。

松田:うんうん。

中垣:おれはそれが嫌で、その子のアカウントはミュートしてるねん。それを見たくないからじゃなくて、それを見たときにねじれた優越感をおぼえる自分が嫌で。

松田:はいはい。

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これに喜ぶのを見て何も思わずにはいられないという悩み

中垣:なんか…こういう気持ちってなんなんやろうって。あるいは、たとえば気を利かせて…そろそろ帰ろうとしてるなつきのために荷物をまとめとったとするやん? でもなつきがそれに気づかずに無神経にて崩したときの、「せっかくやったったのにお前なんなん」って気持ち、まあ一般的にはあると思うねん。

松田:あー、まあまあ。

中垣:おれはあんまないし、むしろ無神経にやっちゃう側やねんけど、これってなんなんやろうなって。要はサンドバック化、藁人形化しているというか、自分にとって都合のいい相手の像を作り上げて、それを起点に自分の感情を組み立てるわけ。そういう感情って怒りであれ嫉妬であれ、すべからく醜いなって思ったのね。

松田:なるほど。

中垣:もちろん…たとえば怒りの話だと、一方で怒った方がいい場合もある気はして。たとえば自分が大事にしていて、相手もそれを知っているもの、これを壊されたときは怒ったらいいと思うねん。なぜかというと、そこには仮想的な相手は存在していなくて、お互いに了解している事柄についての一次的な反応として怒りがあって、相手もその怒りを見てその理由が分かるわけやん。

松田:うんうん。

中垣:この怒りは別に健全やと思うねん。逆に「せっかくやってあげたのに」っていう怒り、これは全く不健全で、なぜかというか相手はそれを了解できていないから。

松田:うんうん。

中垣:一層ずつ積み重ねていくコミュニケーションの手段としての怒りは全然あると思うねん。でも「せっかくやってあげたのに」系の怒りっていきなりバンって出すから…

松田:「え…」ってなっちゃうな。意味分からんもんね。

中垣:そうそう。まあモヤモヤするところが事実あったとしてもさ、それは自分の中に勝手に積み上げたものだから、一度分解して一層ずつ相手にも了解してもらわないといけない。「帰ると思ったから荷物まとめといてんけど…」みたいなね。まあそんな言い方するやついたらちょっときしょいけど。

松田:まあ分かるよ。去年日銀が為替介入したときさ、当局のお気持ち表明の具体的な表現と、それに対応する為替介入への現実度の対応表みたいなのが日経にあったのよ。

中垣:おれそれ見てへんな。

松田:なんかそういうのが業界のコンセンサスとしてあるらしいねん、この言い回しやとレベル3、みたいな。

なつき:はいはい。

松田:あとは外交でもそうやん、遺憾の意とか懸念とか。あれも全部それに対応するレベルが了解されてるわけやん。激おこぷんぷん丸の進化表と同じやつがあるわけやん。

なつき:笑

松田:だからコミュニケーションとして成り立つわけやんな。まあそう考えると、それはもう怒りとさえ呼ばんでもええ気がするな。

中垣:うんうん。

松田:つまり、それが意味するところがきちんと了解されているコミュニケーションをとりましょうっていう。

中垣:なんかせっかくやってあげたのに系って、記号的な怒りのハックって感じがするのよね。怒ったら怒ったもん勝ちなところがあるやん。

松田:はいはい。

中垣:でも本来はそうじゃなくて、一次的な感情があって、それに対応する表現としての怒りがあるわけやん。

松田:てかこの話って一般論として、それとも自分の話として?

中垣:いや、おれ怒りはあんまない。

松田:うん…してあげたのにとか言うてモヤモヤするの、個人の経験としてはあんまないねんな。

中垣:まあ程度問題やけどね。

松田:そこでモヤモヤしちゃうやつ、全然同情できひんもん。ホストの痛客と一緒やん。

中垣:まあよほど甚だしくスポイルされた場合、自分も思うことはあると思う。まあ共感はできる。なんかおかんに対してずっと思っててん。これは怒りたくて怒ってるやろと思って、それを直接言ってまた怒られるっていうのをやっててんけど。

なつき:笑

松田:まあ彼女と喧嘩するときってそういう感じやんな。最近でこそ喧嘩してへんけど。

中垣:まあ…そういうことですよね。

なつき:やっぱり笑

松田:うーん…まあ分からんではないねんけどさ、でもじゃあ誰が悪いんかって話になると、合意もなしに勝手な期待をした側に決まってるよな。

貰ったプレゼントは気に入らなかったら捨てるし、いかなる善意も必要なければ受け取らないんですけど、そもそもが僕のためにしてくれることなら、僕が歓迎していない時点で試みは失敗しているし、もちろんそのことも分かってくれますよね?
…って言っている友人がいました〜😅

中垣:なんかさ、あらゆる関係を優劣に矮小化するメンタリティというか…あれがその原因やと思うし、これは別に怒りじゃなくてもある話やと思うねん。

松田:うん…まあちょっと話は広くなるけど、コミュニケーションなんて成り立つだけ奇跡やと思っといた方がええよな。最近めっちゃ考えるわ。他人のことなんて分からないし、単純な二項対立に矮小化できるもんじゃないし。

中垣:いやほんまに。「これは…いったんペーパータオルってことでいいですよね。で、これはライターですよね。よしよし」みたいな感じやん、コミュニケーションって。そうやってひとつずつ合意して初めて、それを前提にまたひとつ積み上げられるっていうものであって。

‌‌レコーダー:ガタっ

中垣:今ばりノイズ拾ったで。

松田:おれが丁寧に設置していたレコーダーを、中垣が落としそうになっててん。

中垣:あ…

松田:いいよ、合意してなかったから笑

中垣:笑 でも難しいな…まあそうやね、変な誤解をしている相手には、確かにコミュニケーションなんてできないっていうのが前提やんね。

松田:しかし、だからと言ってというか…つまり、例えばしえちゃんの気持ちになって考えてみてや。

中垣:いや同級生ってぼかしたのに…

松田:なんでお前らはそんなことを論うんだと。そこはもう合意できない領域として放っておけばいいし、それはそれとして、共有できる世界観を探してそれについての話をするなりしたらいいじゃないかと。

中垣:いや、うんうん。

松田:どうしてお前らにとって重要な価値に基づいて私のリアリティを矮小化するんだと、きっとそう思うわけやん。

中垣:それはそうやんね。

松田:あるいは逆に、自分達だってそういう気持ちを経験することはあるわけ。例えば代々木上原の部屋でやっとったときに来た彼とか、なんでお前の都合のよい世界から出てこようとしないんだと、そっちの世界を前提に話をされても何にもならない、そういう感じあったやん。

中垣:うん。

松田:そういうとき、今の自分は相手を切ることしかできないけど、そうじゃなくてより建設的な話ができる方向にレールを敷くことができれば、それはすごくいいよなって思ってる。

中垣:まあそうやね、でも難しいよな。

松田:さすがに自分からそういうコミュニケーションをとることはもうないと信じたいけど、そういうコミュニケーションを仕掛けられることは今でもあるからさ。

中垣:なくない?

松田:うーん…まあ実際に起こることはほとんどないかもしれないけど、そういう事態になるポテンシャルを強烈に感じるから、前もって距離をとるみたいなことは頻繁にあるやん。

中垣:あー、そうそう。かなり手前の段階でお互い出会わない方がいいよねって判断するやん。

松田:そう。なんだけど…できることであればその人達ともコミュニケーションを取りたい。そうしたらもっと友達増えそう、みたいな。

中垣:あー…

松田:だから困ってはないよ、そういうは可能性を事前に排除してるからね。でもできることであればもっとスマートな手段がほしい。

中垣:でも具体的にそういうことってある?

松田:例えば夏に赤坂でパーティーしたとき、白濱さんが連れてきたギラつき商社くんみたいなんおったやん。

中垣:あー、おったおった。

松田:でも彼だって、別に共有できる世界観の範囲内であれば話せることがあると思うし、致命的に共有できない世界観があるからこそ際立つ何かがあると思うねんな。

中垣:うーん…まあ分かる、分かるよ。だからNHK力やね。

松田:臭みのある肉を美味しく調理できる方法を知ってるってことやねん、そらできた方がええに決まってる。フグじゃないけどさ、エゴの強いバカの調理免許というか。

ほんまに仲良くできる?

中垣:なんか…自分はこう思ってるけど、相手ないし多くの人はそうは思っていないと。そこで「私はこう思う」って言っても何にもならない、少なくとも自分の知る環境ではあまり有効ではなかってんな。むしろ失敗例の方がむちゃくちゃ多くて。

松田:うんうん。

中垣:だからそんなことをするより、本来は全くそう思ってなかったのに「なんか…部分的には自分も前からそう思ってたかも」って言わせてあげるような、そういう伝え方ってできそうやん。それができたらとは思うかな。

松田:はいはい。

中垣:でも白濵さんの連れてきた彼は無理やで、あの場でそれは無理。

松田:まあね、この課題感の向かう第一問目ではないね

中垣:だっておれあのときだいぶ頑張ったもん。うんうんって聞いててんけど、なんか途中から「かしこい話も大事なんだけどね、おれみたいなのも大事なんだよ」みたいなことひたすら話し出して。

なつき:笑 そんなことがあったんだ。

中垣:あんたが思ってるほどかしこではないんですが…とか思ってた。

松田:こちらをさ、自分が向き合わなかったものに向き合った、一方で自分が獲得したものは獲得できていない、そういう対象として単純な型にはめたい彼の気持ちもまあ分かるやん。その気持ち自体に直接ディープダイブできれば、また話は違ってくるように思うねんな。

中垣:うーん…でもむずいよね。

松田:インセプションやね。 あるいは心のジャック・マイヨール。

中垣:相手に花を持たせるみたいなことは、まあ演技をすればできるわけやん。でもそれってあまり解決ではないやん。その場ではその構造自体を壊して、フラットに関係を築くみたいなことをせんと。

松田:はいはい。

中垣:だから、たとえば銭湯で出会えばそれができるやん。そうじゃないとき、それをどうやって銭湯タイムに持っていくかっていう…これやっぱむずいよ。

松田:でもこれは『プロカウンセラーの聞く技術』案件やと思うねん。あちらとこちらやと思っとったらあかんねんて。

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もっとも世俗的な効用さえ十分にあるので、つまり読んで実践したらモテるので、全員読んでください。

中垣:もちろん相手にフルコミットする気持ちがあればできると思うよ、「前の話気になったからちょっとお茶せえへん」って言ってお茶すればさ。

松田:いや…別にそんなことせんでも、その場で彼がそう考えているのは彼にとっては必然なのであって、そこに直接興味が持てればその場で話はできるよ。

中垣:じゃあどうやって解きほぐすん?

松田:解きほぐすっていうとさ、相手には相手の、自分には自分の世界観があって、それを一度解体して向き合わなあかんって前提に立ってるやん?

中垣:うん。

松田:でもそれってさ…太郎の後輩でおったやん、カルチャー面で喧嘩しない作法を知っているみたいに中垣が言ってた彼。

中垣:あー、おったね。

松田:彼とかは賢明やから、これまでの経験からそれを学んでるわけ。見解の相違が問題になりそうなときは、初めから下げておくことを知ってるやん。今言うてるのってそういうことやろ?

中垣:そうそう。

松田:そう、でもそれをできるのってごく一部の人だけやから、基本的にはこちらが向こうの土俵に立つところから始めなあかん気がするねん。

中垣:だからそこで向こうに花持たせることになるやん。

松田:ええよ別に。花持たせるって言ってるときは、まだ自分の土俵におるねんて。

中垣:いや分かるよ。分かるねんけど…自分が本当にしたい話をするために、結局相手を気持ち良くさせるフェイズがそこにはあるわけやん。

松田:いや、そもそもしたい話なんてないよ。

中垣:ないの? じゃあなんで話すん?

松田:したい話があんの?

中垣:もちろん特定のこの話っていうのが最初から分かってるわけではないけど、話してるうちに自分との違いを知って…っていうフェイズに行くまでに消化試合があるってことでしょ。

松田:いや、別に最初からそれでいいんじゃない? そのまま全部「ああこういう世界観もあるのか」っていう、それでよくない?

中垣:まあそう思えるならいいねんけど…おれはそうは思えないからね。つまり相手がひとしきり気持ちよくなってる時間には、「君が自分のポジションを確保しようと思ったらそういう話をするよね」って、やっぱり内心思ってしまうし。

松田:じゃあもう無理やで。相手に頼んでやってもらえるもんではないねんから。

中垣:もちろん大前提、あらゆる人とコミュニケーションをしたいというのはあれど、それなら別の人と話したほうがいいと思っちゃう気がするな。そのコストを補って余るほど話したいと思う人はいるし。

松田:うんうん。

中垣:あとはビジネスとか、明確な目的があれば別やけどね。

2023年3月31日
Aux Bacchanales 紀尾井町