#9 完落ちの感じがどうしても苦手
完落ちの関係を維持するのって、キモくて難しい / 120点の完落ちをさせるのはしたくないし、できない。徐々にその人のことを嫌いになってまうもん / 「確かにそうですね、僕もそう思います」って、他でもないこのおれに言ってほしがってることをおれは知ってる
河東:いける? もう完落ち?
松田:うん、これはもう完璧に落としたね。
河東:キー局の美人女性記者がやるやつやね。でも人を完落ちさせるのって難しいよね。おれ記者のときにすげえ思ってて。
松田:あー、なるほど。
河東:記者って、言うたら完落ちさせなあかんねん。いい記者っていうのは結局、なんでも教えてくれる人が一人いるだけなんよ。
松田:あ、そうなん。
河東:政府関係者ってキューのつく、主席補佐官とかそっち系の人もそうやし、おれは大阪府警を担当してたけどやっぱりそういう人がいて、一番情報を知ってる人は実は誰なんかが大事、みたいな話になるねん。
松田:はいはい。
河東:で、その人が教えてくれるねんな。やっぱり警察っていうのは縦関係が強いから、元々どこにおったかっていうのがでかいねん。その人はこの人の元上司やから、実はいろんなことを相談されている、とか。そういうのがあんのよ。
松田:なるほどね。
河東:で、まあ警察署でいうと南署っていうところが…難波にある一番治安悪いところの所轄やねんけど、そこはもっと南の方に応援に行くことが多かったり、かつ所長に大出世する人が多かったりして、そこの人はいろんなことを小耳に挟んでたりするねんな。
松田:金脈やん。
河東:その一人の金脈を取れるかどうかっていう話やねん。パレートの法則じゃないけど、欲しい情報のうち90%は一人から聞けるのに、それを他から集めようと思っても底なし沼やねん。
松田:なるほど、なるほどな。

河東:そういう人を完落ちさせてる記者が、俗に言う特ダネ連発記者になるねん。ただそういう人を完落ちさせるのって…まあむずい。
松田:うんうん。
河東:よく言われるのは、男はむずい。それより一年目の女性記者とかで、何も分かってないけど健気に頑張ってて愛嬌がある、みたいなのが強い。
松田:まあな、なるほど。
河東:ただ何年目かの時点で男が上回る、男の方が刺さるようになるねん。そう言われてる。
松田:まあね、うん。

河東の話は当為ではなく存在の話やからね。いずれにしてもこの本は大変によい内容で、別にことさらにかまえずとも新しい見方を獲得できるように書かれています。本当はVERY妻になってヴァンクリが欲しい同級生のかのこちゃんに教えてもらいました。
河東:みたいな話やねんけど…相手を完落ちさせてるときって罪悪感があるというかさ、なんか逆に気恥ずかしくなったりせえへん? 相手から大好きってこられると、一瞬相手を操ってるような気になるやん。
松田:なるなる。
河東:やっぱなるよね。そのバランスを崩さんようにやらなあかんっていう、そういう意識が自分の中ではたらいてるのもどっかで思ったりするやん。
松田:うんうん。
河東:それによって、ほんまは思ってへんことも言ったりするやん。もちろん仕事とかやったら仕方ないねんけど…でも完落ちの関係を維持するのって、キモくて難しいよなって。
松田:そのキモさはある、あるよ。
河東:しかもその完落ちした瞬間が分かってもうたりするし。
松田:分かるよ。「(おれは今、お前がなんて言ってほしいのかを知ってる。言うぞ、言うぞ…)」みたいなね。
河東:これはもう恋愛でも仕事でもそうやけど、完落ちさせてまうことすなわち…
松田:終わりやからね。
河東:言うたら主従関係ができてまうわけやん、仮に実際の立場が逆だったとしても。上司が喜ぶことを常に言える部下、これはもうその上司のことを服従させてるからね。
松田:うんうん。
河東:…ってなったとき、それってコミュニケーションとしてすごく歪やなと思ってて。それが記者のときに一番しんどかった。これ分かる?
松田:いやー、なるほどな。分かる、分かるよ。
河東:それによって知りたいことを聞き出せるんかは知らんけど、それをやってる自分を愛せるのかっていう。実際のところ情報屋以外にも、完落ちさせることで飯食ってる人って結構いると思うねんな。
松田:うんうん。
河東:コンサルとかもそうやと思うし、営業マンとかもそうかもしれへん。でもおれはその完落ちの感じがどうしても苦手やねん。
松田:なるほどなるほど。

3年でコンサルを辞めた中垣いわく「わりと正しい内容」らしいです。同じシリーズで5年間のやつが出たら買うって言っていました。
河東:人と接するのは得意やのにね。だからさっき言ってたようなライトな関係が一番いいねん。初対面で100点出すことが得意。
松田:うんうん。
河東:でもそれを10回やって、120点の完落ちをさせるのはしたくないし、できない。徐々にその人のことを嫌いになってまうもん。一番最初が一番好きやねん。
松田:うんうん。
河東:だから 𝐜𝐨𝐦𝐦𝐦𝐨𝐧 とかのパーティーに来た人と一番最初に仲良くできるのは絶対におれやもん。
松田:間違いない笑
松田:会えて嬉しい(おもんなかったらしばく)
河東:けどそれは一般ピープルに対してね。ものすごく何かに対しての造詣が深いとか、そういう人じゃなくて。たとえばクレジットカードを作りに来た人に対して完全に分かりやすい説明をすることはできるねん。
松田:はいはい。
河東:これ太郎と2人で茶しばいたときにも話してんけど、賢い人が言うてることの要点はなんとなく分かって、それをアホに伝えるのが得意やねん。そこに上下関係とかなくいけるっていう。
松田:でもそれ思ったことあるわ。アティチュードがあればダサくてもええやんみたいな話あったやん?
河東:ああ、オリの話ね笑
松田:そうそう。オリを買うダサい人のことを…おれが言ったようにダサいと思ったりはしないわけやん。
河東:しない。結構ほんまに、ダサいとか思ってない。
松田:ほんまに思ってへんねんもんな、すごいよな。
河東:それができるのは結構な能力やと自分でも思ってて、それがはまる仕事がないかなと思って探してる。けどやっぱふわっとしてるから難しくて、おおよそリクルーターみたいな人と話してどうこうなるもんではないな。
松田:笑
河東:そういう仕事みたいなんを探してる。これ学校の先生とかでもずっと担任は無理やと思う、2週間の特別講義の講師とかならめっちゃええやつになれんねんけどな。
松田:笑 でも完落ちな…最近そこについてはすごく自覚的やねん。もちろん自分の場合、外形的なパワーバランスは真逆やねんけど。
河東:でも実情は違うでしょ。
松田:うん。ただおれは後ろめたさというよりは、これに自覚的になっていこうと思ってるな。
河東:それもいい乗り越え方やと思う、てかそれしかないと思う。
松田:おれにはもうそれしかないもん。実際のところ感覚的にできちゃってるし、それを言葉で整理して再び実践するみたいなのも得意やし、じゃあいっそちゃんとやろうと思って。
河東:うん。
松田:てかこれ聞いてほしい。別にこの場合に限らず、外形的なパワーバランスはむしろ不利でも優位に立ち続けられるのって、相手が何をどれだけ持っていても、それをこちらが必要としていないからやねん。
河東:あー…
松田:自分の場合、ひとつにはそういうスタンスを取ってるというのはそうだけど、正直なところまじで興味ないことがほとんどやねん。一見そう見えても、ちょっとした興味で試してみているだけやねん。供給が止まってもおれは困らへん。
河東:うんうん。
松田:でも相手はちゃうねん。「確かにそうやね、僕もそう思う」「確かにそうですね、僕もそう思います」って、他でもないこのおれに言ってほしがってることをおれは知ってるねん。あんま楽しいもんではないけどね。
「それは間違っている」って全員から言われても、じゃあお前ら全員が間違っていると言えるわけ
河東:なるほどな。
松田:結局のところ、お互いの間で本当に重要な戦略的資源ってそれだけやねん。だからおれのほうが強い、じゃあそれはもうやり切るしかしゃあない。
河東:なんか…けどおれも最近そういうことを意識してる気はしてる。実際あんまないよ、地位とか…
松田:六本ヒルズのスターバックスで話したとき、「僕は僕で、河東という線では結構やらしてもらってるんですよ」の話あったやん。万事ああいう気持ちでおったらええよね。
河東:あれは実際そうだし…てかそうじゃないとだめよね。
松田:そう、でもほとんどの人はそうじゃないのよ。
2023年4月7日
Aux Bacchanales 紀尾井町