#11 フリーライドでは次に行けない
松田:諸々のデザインができます、それを仕事としてやってるわけやろ。要はプロやん?
ゆわ:まあまあ、そうですね。
松田:これまで「タダでちょちょっと作ってくれへん?」みたいに言われたことってある?
ゆわ:全然ありますよ。まあちょっとできると思われているから、「1000円でお願い」みたいな。
松田:それってどんな気持ちになんの?
ゆわ:どんな気持ち…依頼してきた人が仲の良い人なら逆にショックですよね。あまく見積もられているというか、理解されてないなっていうのもあるし。
松田:うんうん。
ゆわ:仕事にしている以上、お金を払うことに誠実さを感じるから…ね。「最近趣味でこういうことやってんだよね」に対してなら別にいいんだけど。
松田:うんうん、そうね。
ゆわ:でもそれでご飯食べてるからな…みたいな。
松田:なんかね、自分が最近世話になっている人がいて、その彼はお店をやっているんだけど…そのお店もその人も、まあカルト的な人気があったりするのね。
ゆわ:うんうん。
松田:で、このあいだ「こんなDMがきたんですよ」って言うから見せてもらったら、「前にどこそこでお見かけしたんですけど、そのときに着ていたあの服ってどこのやつですか」みたいな内容やったのね。
ゆわ:はいはい。
松田:で、彼にとってはそういうのが一番きついと。その人はプロとしてお店をやっていて、自分の資本で仕入れをして、売れなければ全部廃棄になる、そういうものとしてやっているわけ。
ゆわ:はいはい。
松田:それに対して、あのお店のオーナーが着ていた、そのお店では取り扱いのない服がどこのブランドかを知って、それを同じように着ることでその人が積み上げた信頼とかスタイルの上澄みをかすめる感じ、それを平気でされるとしんどいって話やってんな。
ゆわ:あー、はいはい。
松田:で、自分はそれに対して「仕事としてやっているってことがどういうことなのか、分かってへんやつが多すぎますよね」って話をしたんやけどね。
ゆわ:はいはい、なるほどな。うんうん。
松田:でもこれ、分かっている人の方が実際は少ないよなとも思って。それこそ彼みたいに、明らかに仕事でやっていてもそういう DM はくるわけやん。
ゆわ:うんうん。
松田:まして…自分はこれまで、分かりやすく何かに仕事として取り組むことはなかったけど、とはいえ大真面目にやってるわけ。コストを割いて、実を結ぶにしても結ばないにしてもその結果は自分が被ると、そういうものとして全てに取り組んでいるのね。お戯れじゃないのよ。
ゆわ:はいはい。

松田:でもね、大学は人生の夏休みとか、土日は休みとか思ってるやつにはそれが分からへんのよ。
惰眠でさえ全力で貪らなあかん、それができんやつは何やってもダメ
ゆわ:まあ…そうですよね。うーん。
松田:これなんて言えば伝わるかな…あるいは別に、単にコストを割くだけでもいけないと思うねん。それこそ commmon を初めて最初の十数回くらいって、毎週Airbnbで部屋を借りてて、まあ毎週3万円とか4万円とかかってたわけ。
ゆわ:はいはい。
松田:でもそのコストって、当時それを払っていた自分とみなとにとっては、それが溶けたからといって生活や人生が損なわれる類のものではなかったのよね。別に何ともトレードオフにはなっていないというか。
ゆわ:身を削った費用ではない…みたいなね笑
松田:そうそう。でもそういうものとしてであれば、いくらコストを割いたとしてもやっぱり何にもならないと思うねん。
ゆわ:うんうん。
松田:それこそ当時中垣に「お金を出したらそれでなんとかなるもんでもないからな」とは言われててんけど、なんか最近特にそういうことを思うねん。何かとトレードオフにベットするような、そういう類のコミットメントって、そうじゃない類のそれとはコミュニケーションが取られへんというか。
ゆわ:うん。
松田:で、これはまあ感覚的な話やけど、世間的には後者がほとんどやと思うねん。だから大真面目にやるんであればそのことを分かっていないといけないというか、そうじゃないとフリーライドを許すことになっちゃうよねって。
ゆわ:あー、そうね。フリーライドね。
松田:でもそれがフリーライドだと分からへんやつには絶対に分からへんねん。さっき言った DM だって、それを送った人には邪悪な意図は1ミリもなかったと思うし。
ゆわ:笑
松田:もちろんこれはね、フリーライドするやつが悪いって話じゃなくて、大真面目にやるのであれば型を作ってそこにはめ込まなあかんというかさ。
ゆわ:あー、はいはい。なるほどな。
松田:自分の信じる価値が持続可能なように、それに有形無形の対価を支払うと、そんなことを考えている人なんてほとんどいないんだから、そこは…まあお金はもっとも分かりやすいところだけど、コストを割かないと何も出てこないような仕組みにせなあかんねんなって。
ゆわ:そうですよね。
松田:まあ当たり前やねんけどね。で、そういう経験あるやろうなと思って聞いてん。
ゆわ:それはありますよ。
松田:でもこれ、なんなら10年前から思ってたな。なんか大学生ってさ、だいたいみんな「コムデギャルソンいいよな」とか言い出すやん。でもそう言って古着でコムデギャルソンを買ってもさ、実際のところコムデギャルソンには…
ゆわ:一銭もね?
松田:そうそう、一銭も入らんわけ。となるとじゃあお前の言うギャルソンがいいってどういうこと?ってなるわけやん。
ゆわ:うんうん、よく分かる。
松田:全員が「ギャルソンいいよな」って言って古着で買ってたら、ブランドなんて一瞬でなくなるわけ。
ゆわ:うんうん。なんか…ね、古本とかも一緒というか、私にとっては新品で買いたい本と中古で買いたい本があるのね。
松田:うんうん。
ゆわ:で、中古で買って、「いいね、この作者」ってなったら次の本は新品で買うとか、そういう選び方をするんですよ。フリーライドはするときはするし、しないときはしないんですよ。だからその時点でフリーライドという考え方自体はあって、その良し悪しを考えることはあるんだけど…
松田:うんうん。
ゆわ:でもほとんどの人はそもそも考えていない、っていうね。でもそれは…自分で作らないから?
松田:うん、まあなんとなくある気はするけど。
ゆわ:ね。分かりやすい差としてはあるけど、でもたとえば Twitter とかだと、デザイナーみたいな人って腐るほどいるじゃないですか。あの中にもたぶんあるんですよ。ココナラでロゴを500円で売るあなたはなんなんですか、みたいな。
松田:はいはい笑
ゆわ:そこにはまた違う話があるじゃないですか。あと、確かに「1000円でお願い」みたいに言ってくる人はいるんだけど、個人的に私に依頼してくれる人達は、わりとちゃんと払ってくれるんですよ。
松田:うんうん。
ゆわ:で…なんだろうな。クオリティとかデザインの雰囲気みたいな話はもちろんありつつ、背景にある私との繋がりとか、昔の私を知っていてそれも込みで頼みたいんですとか、そういうのもあるから。
松田:うんうん。
ゆわ:それをなんか、一定の型として作るってなるとむずいなとは思いますよ。
松田:まあうん、そうね。それは確かに。そこはあえてフワッとさせておいた方が、個別具体的な気持ちが損なわれずに済むという話はあるよね。
てめーもな、7,000円もするTシャツみんなが買ってくれたことよーく考えろな
ゆわ:でもそうやなぁ…フリーライドな。なんかね、昨日ちょうどリスクみたいな話を考えてて。
松田:はいはい。
ゆわ:だからといってどうという話じゃないですけど、フリーライドをする人って、自分は全くリスクを負わずにいい感じになろうとしていて、その人達はそうやってゲットしたものをいいと思ってるけど、少なくとも私はそこに実感を持てないから、そうやって手にしたものは良いと思わないというか。
松田:あー、うんうん。
ゆわ:それをどこまで欲しいと思うのかみたいな、そういう感覚的な話なのかな…だから別に作ってるからとか作ってないからというよりは、欲の深さじゃないけど、そこはあるのかなって。分かんない、分かんないけどね。
松田:うん、なるほどね。
ゆわ:リスクを負って、減った分だけ新しく入るものじゃなくて、今の状態からチョンって乗ったものだけでいい人もいるっていう。そこかなとも思う。
NISAみたいなのはNISAだけでいいんだよ
松田:うん、分かる分かる。これまでの自分を捨てた分、本当に以前までの水準を超えて乗るのかは分からないんだけど…っていうね。
ゆわ:そうそう。でも何回生まれ変わるかゲームみたいな、それを恐れるとか以前に楽しんでる人っているじゃないですか。それをどんなフィールドでやるかは別として、どちらかというと私はそういうのが好きなんですよ。生まれ変わるのが好きなんです。
松田:うん、なるほどね。
ゆわ:だからなんだろうな、フリーライドでは生まれ変われないというか。味見程度では足りん。
2023年4月13日
Aux Bacchanales 紀尾井町